Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム6 組織弾性評価の手法と用語の標準化に向けて

(S142)

乳腺領域における組織弾性評価(Breast Elastography)の手法と用語の標準化にむけて

Standardization of System and Terminology for Breast Elastography

中島 一毅

Kazutaka NAKASHIMA

川崎医科大学総合外科学教室

Department of General Surgery, Kawasaki Medical School

キーワード :

 乳腺領域でのエラストグラフィはすでに必須のツールとなっている.これは国内の乳癌診療事情に大きな要因がある.マンモグラフィ検診の普及により,乳癌が疑われる微小病変の検出が増え,要精査症例も急増している.しかし,多くは良性病変や正常バリエーションであることから,細胞診,針生検,VABなどの侵襲的検査が実際には不必要に行われていることに乳腺専門医・超音波専門医は苛立ちを感じている.臨床現場からすれば,侵襲的検査から回避するために超音波検査を駆使したいわけであるが,いまだにBモード単独で鑑別できない病変が多く存在する.そこでエラストグラフィを加えることで良悪性の鑑別精度が向上しないかとの期待から,臨床研究がすすめられた.現在,複数の臨床試験結果が報告され,エビデンスが報告されている装置では積極的にエラストグラフィが臨床応用されている.
 2012年には乳腺領域では,日立アロカメディカルの“Real-time Tissue ElastographyTM(RTE)”とSiemensの“Elasticity Imaging(EI)”の他,GE,Phyllips,ZONARE,SAMSUNGの“Elastography”,東芝独自のドプラを使った“Elastography”,さらにシュア・ウエーブにより用手的圧迫をほとんど必要としないSupersonic Imagineの“ShearWaveTMElastography(SWE)”,Siemensの“ARFI”と8社のエラストグラフィが発売されている.これらはいずれもひずみ率や音速変化から硬さを推計するという質的診断能力を,形態的診断である超音波領域に持ち込んだ概念は共通であるが,画像構成理論や開発方向性が異なり,得られる画像も異なる.ただ方式による画質にはある程度の傾向があり,用手圧迫によるひずみ率を中心に画像構成する“RTE”と“EI”,およびGE,Phyllips,ZONARE,SAMSUNGの“Elastography”はほぼ同系統の画像であり,病変の病理像を推察することを目的に使用される.もちろん,感度,エラストグラフィSN比,ひずみ率の分解能,ノイズ処理などに違いがみられ,全く同じ画質・性能ではないが,少なくとも「Manual Compression Elastography(MCE)」としてまとめられる.一方,対象の硬さを測定することを目標とした“SWE”,“ARFI”も「SWE」にまとめることができるが,画質の印象は異なる.ただ,現時点では臨床上の使用目的からはこの二つに分けるのがわかりやすい.
ここで重要なポイントは目的と評価法,再現性・有用性の根拠である.再現性・有用性は前向き臨床試験などから推察するしかないが,すでに発売後10年経過している“RTE”に関しては圧倒的多数のエビデンスといえる報告があり,一定の精度と有用性は確立している.この評価法には“TSUKUBA SCORE”,“STRAIN RATIO”が広く用いられ,同じ「MCE」系統のSiemens,Phyllipsに関しても同様の評価法による有用性・再現性が報告されている.また,本年からは「SWE」の臨床試験結果も報告され始めている.
 以上より,大枠での乳腺領域エラストグラフィの有効性は保証されているといえるが,まだ有効な対象病変や評価法は一律ではない.さらに,前述した前向き臨床試験等の報告がないもの,熟練したエラストグラフィユーザーが使用した場合,強い違和感のある装置もある.言い換えれば,まだすべてのエラストグラフィを推奨できる状況ではなく,今後,各手法,搭載装置毎の臨床試験報告を期待する状況である.この問題の解決のため,日本乳腺甲状腺超音波診断会議(JABTS)精度管理研究班では,エラストグラフィ研究チームを立ち上げ,有用性,精度管理などを協議中である.今回,このチームで提唱した分類と用語を供覧させていただき,エラストグラフィに関する理解を深めて頂きたい.