Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

会長講演
会長講演

(S129)

超音波は組織を叩くこと

“Ultrasound means beating the tissue.”

森安 史典

Fuminori MORIYASU, M.D.

東京医科大学 消化器内科

Department of Gastroenterology & Hepatology Tokyo Medical University

キーワード :

 私が大学医学部を卒業した1975年は,電子スキャンが開発され,実用機が市販された年であった.リニア型の電子スキャンにより,リアルタイムに膵臓の断面が描出されたときの驚き,感激は今も脳裏に焼き付いている.その時の映像が,今でも,日々の診療を行なうときのモチベーションの一つになっていると言っても過言ではない.
 以来長年に亘って超音波診断装置は進化を続け,今後もそれは止むことはない.B-modeにしても,現在では多くの機種が位相変調法のハーモニックイメージング法を用いている.散乱体からの線形散乱をグレースケール表示するのが従来の手法である.一方,ティッシュハーモニック法では,組織を押す陽性波と,それを引く陰性波によって生じる散乱波の差分,非線形成分を映像化するという手法を採用している.
 造影超音波もしかりである.低音圧の超音波で叩くことにより,生体内にあるマイクロバブルを共振させ,それにより生じるハーモニック信号を映像化している.また,マイクロバブルを使った撮像法では,replenishment imagingと呼ばれる手法が用いられる.これは,スキャンボリューム内の気泡を高音圧の超音波により全て壊し,その後周辺からスキャンボリューム内に流入する新しい気泡を低音圧ハーモニックで映像化する手法である.これは腫瘍内の微細血管を観察したり,組織血流を定量するのに用いられる.このように,造影超音波とは,超音波送信を操作することにより,術者の意のままに気泡を振るわせたり壊したりして映像を取得するという,いわば能動的な診断技術であると言える.
 近年開発が進んでいる超音波診断技術にエラストグラフィーがある.主に2つの手法がある.一つは,体表に近い臓器に用いられるもので,プローブを用いた圧迫により生じる組織の歪みを画像化・定量することにより,組織の弾性を知ろうというものである.もう一つの手法は,強い超音波のpush pulseにより,生体内に剪断波を発生させ,その伝搬速度を超音波で測定し映像化するというものである.とくに後者は横波である剪断波の伝搬速度を,超音波ドプラ法により映像化するという手法である.超音波により生体内に波を作りその波の伝搬を超音波で追うという,やはり能動的な画像診断ということができる.
 医用超音波は,超音波治療器としての発展も期待されている.体表からの治療機として,すでに子宮筋腫を対象とした,強力集束超音波(HIFU,FUS)の治療器が市販されている.また,前立腺肥大や前立腺癌の治療器として,経直腸式の治療機も実用化され成果を挙げている.HIFUの治療ガイドには,MRIを用いる方法と,超音波画像を用いる方法がある.MRIガイドでは,治療域の温度モニターができるのが最大の利点である.しかし,組織焼灼には集束超音波の熱効果以外に,キャビテーションによる非熱効果も強調されており,温度モニターのみで治療効果を評価するのは不十分と言える.超音波エラストグラフィーを用いることにより,焼灼により変化した組織弾性(硬さ)を測定することにより,治療域をモニターする方法が有望である.
 以上述べたように,医用超音波の技術は,「超音波で叩く」技術の発達と言っても過言ではなく,今後も多方面の新技術を取り込むことによって,病気の診断のみならず治療への応用など更なる発展を期待したい.