内田 俊毅¹, 小川 皓一², FERIL Loreto², 岩田 郁³

Toshiki UCHIDA¹, Koichi OGAWA², Loreto FERIL², Kaoru IWATA³

¹福岡大学医学部生理学, ²福岡大学医学部解剖学, ³福岡大学医学部第3内科

¹Department of Physiology, Fukuoka University School of Medicine, ²Department of Anatomy, Fukuoka University School of Medicine, ³Third Department of Internal Medicine, Fukuoka University School of Medicine

キーワード :

【背景】
我々は，これまでPDTに使用される光感受性物質を励起する超音波化学療法の効果について報告してきたが，超音波化学療法のメカニズムがすべて解明されたわけではない．近年，固形癌に対して，高エネルギーの超音波で癌を凝固壊死させて治療するHIFUが注目されているが，非温熱領域であるlow-intensity ultrasoundの固形癌に対する有効性についてはいまだエビデンスは得られていない．
【目的】
今回我々は，光感受性物質を添加した固形癌に対して，low intensity ultrasoundによるcavitationの効果に着目し，高比重で流動性に乏しい細胞内にcavitationが容易に発生しやすいように，より低い周波数の超音波を用いて，そのメカニズムの解明と効果を確認した．
【対象と方法】
大腸癌（colon 26）細胞を腹腔内に腹膜播種させたマウス（BALB/C）を，未治療群（C群），超音波のみの群（US群），光感受性物質であるphotofrin（Pf）投与のみの群（Pf群），Pf投与と超音波照射の併用群（Pf+US群）の4群に分けて行った．Pfを腹腔内へ投与し，48時間後，超音波ゲルを満たした超音波照射装置の中へマウスを麻酔して入れ，超音波（0.94 w/cm^2，47 kHz）を4分間連続照射し，超音波化学療法の治療効果を確認した．同時に，超音波照射直後のマウスから組織を取り出し，TEMで細胞変化を確認した．また，超音波照射時にmicrobubbleを腹腔内持続投与した併用群で，効果が増強されるかどうかも同時に確認した．
【結果】
Pf+US群で腫瘍の腫大抑制効果と生存率の著明な改善及び治癒を確認した．さらにTEMで，Pf+US群のマウスから摘出した癌細胞だけ，細胞内のほとんどすべてのmitochondria内部のCristaの特異的な破壊を確認した．しかし，Pf+US群の正常リンパ節や正常臓器内の細胞内のmitochondria，さらにその他の群の癌細胞，及び正常細胞のすべてのmitochondriaに変化は見られなかった．また，すべての群の癌細胞，及び正常細胞の細胞膜に超音波の影響は見られず，スムースであった．Pf+USにmicrobubbleを併用した群では，癌の腫大抑制効果や生存率の改善は消失し，C群と同じとなった．さらに，TEMで癌細胞のmitochondriaの特異的破壊は著減し，2〜3％にしか見られなかった．
【考察】
実験結果より，Pfを投与した癌移植マウスに，低周波で低強度の超音波を照射すると，癌細胞のmitochondria内で発生したcavitationがPfに化学変化をもたらし，非可逆性の構造変化を呈し，殺細胞していると考えられた．Pf未投与群，Pfの結合していない正常細胞では，同様にmitochondria内でcavitationが発生しても，寛容的な範囲に止まり変化しなかった．また生存期間では，Pf+US群は，C群と比較しての有意に延命・治癒し，Pf+US群の死亡した7割は，C群の1.8倍延命し，また残りの3割は現在400日以上健康な状態で生存している．Pfは，他にも多くの癌に特異的感受性があり，超音波化学療法は，進行癌を含めたあらゆる癌の治療に応用可能で，今後，新しい癌治療になると確信する．
【結語】
超音波化学療法は特異的に癌細胞のmitochondriaを破壊することができ，in vivoでその有効性が確認された．