Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
産婦人科:婦人科

(S435)

卵巣腫瘍の茎捻転の発生機序についての考察

Possible mechanism for torsion of ovarian tumor

丸茂 元三, 森田 豊, 内田 紗知, 室本 仁, 間瀬 徳光, 難波 直子, 石田 友彦, 大橋 浩文

Genzo MARUMO, Yutaka MORITA, Sati UTIDA, Jin MUROMOTO, Norimitu MASE, Naoko NANBA, Tomohiko ISIDA, Hirofumi OHASI

板橋中央総合病院産婦人科

Department of Obstetric and Gynecology, Itabashi Chuo Medical Center,Tokyo.Japan

キーワード :

【緒言】
卵巣腫瘍の茎捻転は子宮外妊娠,卵巣出血,急性付属器炎などと並び婦人科急性腹症として重要である.卵巣は卵管,卵管間膜,卵巣固有靭帯,骨盤漏斗靭帯で支えられており,卵巣に発生した腫瘍の容量の増大に伴い腫瘍茎が形成される.一般に茎捻転の原因を同定することは困難であるが,誘因としては急激に外力が加わった場合や急激な体位変換,腹圧の急激な変動を招いたような場合があげられる.また分娩後などの子宮の大きさの変動が著しいときに発生が多いことも知られている.茎捻転の発生頻度については卵巣腫瘍の約10%に起こると考えられている.茎捻転はいかなる卵巣腫瘍にも起こりうるが,茎捻転を起こした卵巣腫瘍のうち,組織型別頻度をみると,一番多い組織型を類皮嚢胞腫とする報告が最も多い.また卵巣腫瘍と診断された生殖年齢婦人で茎捻転を起こしたのは妊娠中が非妊娠中より有意に多く,妊娠も捻転の誘因の一つとなりうる.
【目的】
当院で経験した卵巣腫瘍茎捻転の症例から,術前の超音波やMRIやCTの画像から茎捻転を起こしやすい卵巣腫瘍の条件についてretorospectiveに検討し,茎捻転の発症機序を考察してみたい.
【方法】
対象は平成18年1月〜平成21年12月に当科で手術を施行し,卵巣腫瘍茎捻転(傍卵巣腫瘍2例,卵管腫瘍1例の茎捻転を含む)と診断された23症例で,患者の年齢,経産の有無,手術前の超音波,MRI ,CTにおける卵巣腫瘍の位置と大きさ,組織学的診断,臨床経過について検討した.
【結果】
年齢は13〜59歳(平均34.0歳)で,未経産は14例(妊娠合併3症例を含む),経産婦は9例であった.病巣部位は左側15例,右側8例であった.腫瘍長径は5〜19cm(平均9.9cm).腫瘍の病理診断では類皮嚢胞腫(9/23 39.1%)が最も多かった.ダグラス窩にて捻転していた症例は5例(5/23 21.7%)で,腫瘍の長径は,6〜8cm(平均6.2cm),年齢は26〜52歳,全例経産婦で,初発症状出現から手術まで1〜5日間であった.組織型は,傍卵巣腫瘍1例,卵管腫瘍1例,線維腫2例,壊死1例だった.ダグラス窩以外の位置で捻転していた症例は18例(18/23 78.3%)で,その中で類皮嚢胞腫は9例あり,8例は未経産婦であった.未経産婦(18〜38歳)8例中の6例は急激に症状出現し発症から1日以内に手術に至った.2例は初発症状から3〜14日間手術するまで時間がかかっていたが,開腹所見で明らかな捻転は認められず,軽度な捻転を繰り返していたと考えられた.
【考察】
卵巣腫瘍茎捻転を起こしていた位置は,子宮前方の膀胱子宮窩もしくは子宮底部より頭側の位置が78.3%で,ダグラス窩は21.7%だった.類皮嚢胞腫は未経産婦で急激な発症を示すことが多く,全例ダグラス窩以外の部位で捻転していた.ダグラス窩で捻転していた症例は全例,経産婦で腫瘍の大きさはほぼ6cm前後と比較的小さめであった.手術までに少し時間がかかっていることより,ダグラス窩から一旦子宮前方に移動して捻転をお越した後,再びダグラス窩に戻った可能性も示唆される.以上より卵巣腫瘍が捻転する機序として,ダグラス窩より子宮前方に腹圧の関係で移動が起こる時に,捻転を起こし激痛として急激に発症する.捻転が起こらなければ,腹部腫瘤感として自覚し,その後捻転が起きれば発症する.捻転が軽度または,捻転と解除がくり返されれば,症状は軽度で経過観察される.さらに捻転後,比較的小さい腫瘍は,再びダグラス窩に移動することがある.これは比較的腹壁,子宮の可動性が高い経産婦に起きやすいと考えられた.