日置 彩那, 浅沼 俊彦, 岩崎 真梨子, 増田 佳純, 中谷 敏

Ayana HIOKI, Toshihiko ASANUMA, Mariko IWASAKI, Kasumi MASUDA, Satoshi NAKATANI

大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学講座

Division of Functional Diagnosis, Osaka University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
近年，開発された組織ドプラ法やスペックルトラッキング法を用いて心筋速度や心筋ストレインによる定量的壁運動評価が可能となった．大動脈弁閉鎖後に生じる駆出後収縮（post-systolic shortening，PSS）は虚血の鋭敏な指標であるが，視覚的評価が難しい微細なPSSもこれらの方法で容易に検出できる．われわれはこれまでに組織ドプラ法を用いた実験から，短時間の虚血後も収縮機能は改善しているにもかかわらずPSSがしばらく残存すると報告している．この現象を応用して虚血の既往（虚血メモリー）を知ることが可能であると考えられるが，短時間虚血後に残存するPSSがスペックルトラッキング法にて検出でき，虚血メモリーイメージングとして使えるか否かは十分に検討されていない．
【目的】
スペックルトラッキング法にて短時間の虚血再灌流後に残存するPSSが検出可能か検討する．
【方法】
麻酔開胸犬13頭を対象とし，左冠動脈回施枝を1分間閉塞後再灌流した．東芝製Aplio （PST-50ATプローブ）を用いて左室乳頭筋レベル短軸像を描出し（フレームレート 118 frames/s），虚血前，再灌流5分，10分後の画像を取得しオフラインで解析した．スペックルトラッキング法にてリスクエリアにおける左室circumferential方向の収縮期最大ストレイン値（ε_sys），PSSの指標であるpost-systolic index （PSI）を算出した．虚血時のε_sysの低下度により重度虚血群（n ＝ 8，ε_sys -5％），軽度虚血群（n ＝ 5，ε_sys ＜ -5％）の2群に分類し，各指標をそれぞれ比較検討した．リスクエリアの評価は心筋コントラストエコーで行った．
【結果】
ε_sysは重度虚血群，軽度虚血群ともに再灌流5分，10分後において虚血前のレベルまで回復した （図1）．一方，PSIは重度虚血群においては虚血前に比べ再灌流10分まで増加がみられた．しかし，軽度虚血群では虚血前に比べ再灌流5分後まで増加傾向がみられたが，再灌流10分以内に回復した（図2）．
【結語】
スペックルトラッキング法においても短時間の虚血再灌流後に残存するPSSが検出可能であった．PSSの大きさおよび持続時間は虚血の重症度を反映することから，本手法に基づく虚血メモリーイメージングでは虚血の既往のみならずその重症度も評価できることが示唆された．