Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム11
超音波による骨の計測と臨床応用

(S180)

超音波による骨密度と骨質の評価

Assessment of bone density and bone quality by ultrasonic method.

大谷 隆彦

Takahiko OTANI

同志社大学 理工学部

Faculty of Science and Engineering, Doshisha University

キーワード :

【QUSの現状】
骨粗鬆症の診断では骨の力学的強度を非侵襲的に計測して骨折リスクを評価する必要があるが,この様な計測法も評価法も実現していない.しかし骨密度(または骨量)が骨折の重要な予測因子として確立しているので,一般に骨密度(骨量)が診断基準に用いられている.骨代謝は表面積の多い海綿骨部位で先行するので,骨粗鬆症の診断には海綿骨を多く含む部位の骨密度(骨量)が用いられている.現在,診断の基準として標準的に用いられている測定法は二重エックス線吸収法(DXA法)で,皮質骨と海綿骨を透過した2次元投影骨量[mg/cm2]を測定する.測定値は骨の大きさの影響を受ける.海綿骨部位のみの骨密度を選択的に測定する定量CT法(QCT,pQCT)も実用になっている.他方,放射線を利用しない,超音波を利用する骨測定法は定量的超音波法(quantitative ultrasound,QUS)と呼ばれ,海綿骨を多く含む踵骨の超音波透過速度または減衰量を用いて骨密度を評価している.放射線被曝が無い点と音速が骨質に関係する弾性的性質を評価できる可能性があり期待されているが,現状では補助的検査法と見なされている.現在のQUSには問題点がある.QUSの測定値は踵骨部位の超音波透過時の音速(SOS)[m/s]と周波数依存性減衰量(BUA)[dB/MHz]である.これらのQUS測定値はX線法で測定される骨量[mg/cm2],骨密度[mg/cm3]と高い相関性を示している.しかし,QUSパラメータ(SOS,BUA)と骨密度の因果関係が不明確なままQUSの実用化が先行した.このためQUSパラメータと骨密度,骨量との互換性が示されていない.更にSOS,BUAの定義が確立せずに実用化が進んだ結果,機種毎に測定値が異なる.このためQUSの標準化の重要性が指摘され,標準化が検討されている.
【QUSの将来の方向】
現在,骨密度(骨量)の測定に用いられている海綿骨部位は骨梁の多孔性網目構造を持ち,特異な弾性波動現象を示す.海綿骨内では伝搬速度の異なる2種類の縦波(高速波,低速波)が同時に存在することが細川,大谷によって報告(1997)されて以来,海綿骨内の波動現象の解明が進んでいる.骨梁構造に依存して伝搬する高速波と骨髄に依存して伝搬する低速波を分離して計測する超音波2波検出型骨計測システム(LD-100)が開発されて臨床試験が進んでいる(真野他2005).測定値はSOS,BUAではなく,QCT法と互換性のある海綿骨の骨密度[mg/cm3],皮質骨厚さ[mm],さらに海綿骨弾性定数[GPa]も測定できるので海綿骨の骨質評価の手掛かりが取得できる可能性がある.現在,内外の研究者によって海綿骨の骨梁構造と高速波,低速波の関係が追求されているので,X線法では取得できない骨梁構造と骨疾患,加齢,生活習慣の関係が超音波法で解明されると期待される.皮質骨は海綿骨よりはるかに緻密な構造であるが均質ではない.層状のplexiform構造,管状のhaversian構造,多孔性のprotic構造の水酸基アパタイトの結晶配向と超音波音速の関係を松川等が報告(2005)して以来,皮質骨の異方性の解明が進んでいる.さらにタンパク性基質の架橋構造や線維の方向性と音速の異方性の解明が加わると皮質骨の骨質評価の方向が明確になると期待される.Laugier等のグループが長管骨の軸方向音速を測定する手法を開発(2002)し,Moilanen等が管状骨の縦波,横波を含むモード解析を試み(2002)て以来,長管骨の骨強度評価の可能性が高くなっている.皮質骨の微細構造と超音波伝搬特性の解明が進み,さらに生体内の音速とその異方性の非侵襲計測技術が確立すれば皮質骨の微細構造とその弾性的性質にもとづく皮質評価手法と骨折リスクの評価の実現が期待できる.