Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム12
超音波でしか診断できなかった消化器疾患症例

(S169)

造影超音波検査で特徴的な所見が得られたことで診断しえた肝細胞腺腫の一例

A case of hepatocellular adenoma that contrast enhanced ultrasound is useful for a diagnosis

山本 健太1, 熊田 卓1, 桐山 勢生1, 谷川 誠1, 久永 康宏1, 豊田 秀徳1, 金森 明1, 竹島 賢治2, 乙部 克彦2, 高橋 健一2

Kenta YAMAMOTO1, Takashi KUMADA1, Seiki KIRIYAMA1, Makoto TANIKAWA1, Yasuhiro HISANAGA1, Hidenori TOYODA1, Akira KANAMORI1, Kenji TAKESHIMA2, Katuhiko OTOBE2, Kenichi TAKAHASHI2

1大垣市民病院消化器科, 2大垣市民病院医療技術部診療検査科

1Department of Gastroenterology, Ogaki Municipal Hospital, 2Department of Clinical Reserch, Ogaki Municipal Hospital

キーワード :

 肝細胞腺腫は比較的まれな良性新生物で,通常,経口避妊薬を服用する15〜45歳の女性に多いとされる.また肝細胞腺腫は出血,壊死など様々な組織変化を示すため,画像が多彩でありCTやMRIでは他の肝腫瘍との鑑別が困難なことがある.今回我々は職場検診の腹部超音波検査(US)にて肝腫瘤を指摘された患者において第二世代造影剤であるSonazoid用いた造影超音波検査を施行し,特徴的な所見が得られ診断に有用であったため報告する.
 患者は37歳,女性.検診の腹部USにて肝腫瘍を指摘され紹介受診となった.腹部造影CTにて肝S7に動脈相で濃染する境界明瞭な肝腫瘍を認め,MRIではT1強調画像にて低信号,T2強調画像で高信号であった.超常磁性酸化鉄造影剤造影MRIでは周囲肝よりやや高信号の不均一な結節を認め,ガドキセト酸ナトリウム造影MRI肝細胞相では結節は周囲肝に比し軽度高信号を示した.肝細胞癌,肝細胞腺腫,FNH,多血性の転移性肝腫瘍鑑別のためSonazoidを用いた造影US検査を施行し,血管相早期で腫瘍辺縁から中心に向かう細かな血管ともに濃染を認め,後血管相では肝実質と等エコーであった.病理組織学的所見より肝細胞腺腫と診断し外来経過観察とした.
考察
 本症例は造影CTおよび造影MRIの動脈相の所見から血管増生を認める腫瘍であり,その形態から肝細胞癌,肝細胞腺腫,FNH,多血性の転移性肝腫瘍との鑑別が問題となった.その中でも肝細胞腺腫とFNHの鑑別が問題となった.Gd-EOB-DTPAの肝細胞相で軽度高信号であること,SPIO造影MRIでやや高信号であること,造影US検査の後血管相等エコーであることは肝細胞腺腫およびFNHの鑑別とはならなかった.なぜならばこれらの腫瘍は肝細胞としての機能,Kupffer細胞の存在程度は様々と考えられるからである.今回,診断に最も有益であった所見は造影US検査の血管相であった.結節は血管相早期で辺縁から中心に向かう細かな血管ともに染まってきており,FNHに特徴とされるspoke-wheel arteryの存在と中央から外側に向かって濃染していくパターンとは明らかに異なっていた.造影CTおよび造影MRI では濃染する結節を描出することはできたが時間分解能に劣るため,結節の濃染のパターンまでは評価することができず鑑別には役立たなかった.
 今回の症例において興味深い点はSonazoidによる造影USの後血管相(Kupffer phase)とSPIO造影MRIで異なる画像所見を示したことにある.両者ともに結節内のKupffer細胞の有無を反映するとされる.肝細胞腺腫の場合,多寡はあるもののKupffer細胞を含む腫瘍とされる.SPIO造影MRI では周囲肝よりやや高信号で,Kupffer細胞の数は減少しているものの存在することが示された.一方,造影US の後血管相では周囲実質とエコーレベルに差はなく結節内にも周囲肝と同じ量のKupffer細胞が存在すると判断された.これらの違いは,SPIOではKupffer細胞の多寡が腫瘍と正常肝細胞とで比較され,signal intensityの差で表されるのに対して,Sonazoidではマイクロバブルから共鳴もしくは破壊によって得られるシグナルを画像化しているため定量性に乏しかったためと推察している.今後さらに検討を要する点である.