公益社団法人日本超音波医学会|The Japan Society of Ultrasonics in Medicine

機器及び安全に関する委員会

音響放射圧を用いたイメージング装置の生体への影響について

(会 告)

音響放射圧を用いたイメージング装置の生体への影響について

日本超音波医学会
理事長 岡井 崇
機器及び安全に関する委員会
委員長 秋山いわき

音響放射圧を利用して軟部組織を微小変位させ,その変位量を超音波で測定することにより組織の硬さを測定する手法(この技術は,acoustic radiation force impulse: ARFIと呼ばれています)1)を応用した超音波診断装置が薬事法の認証を受け,平成20年度から市販されています2).第82回学術集会におきまして,この技術を用いた研究発表や講演が見受けられました.音響放射圧で組織変位を発生させるためには,一般的には強度の大きい超音波が用いられるため,本委員会では,本手法の生体への影響について調査ならびに検討を行いましたので,その結果を報告します.


  1. 音響放射圧によって組織変位を発生させるために用いられる超音波は,従来の超音波診断装置と異なり,持続時間の長いパルス波形が用いられる.

  2. 超音波の出力に関し,生体への影響が懸念される物理現象はキャビテーションによる組織への物理・化学的影響と,超音波の熱的作用による温度上昇である.この点について,厚生労働省の認証のために満たすべき基準(米国FDAにおいては承認のために満たすべき基準の一つ)として,前者についてはMI値で1.9以下,後者についてはISPTA.3 が720 mW/cm2 以下という制限を設けている.本技術による超音波出力は,この二つの値を満たしていることを製造元から提供されたデータによって確認した.

  3. 超音波の波形の違いに関し,持続時間の長いパルス超音波を用いて,その焦点に骨が存在する場合は,MI及びISPTA.3の制限を満たしていても安全上問題となる温度上昇が生じる可能性があるとFDAのHerman-Harrisらは指摘している3).本装置では,この問題を意識して,超音波照射持続時間を可能な限り短くし(100~200 μs程度),さらに上昇した温度を冷却するための出力休止時間を設けているが,従来の超音波診断装置に比べると超音波持続時間内での熱発生が大きい.

  4. 超音波照射領域中に造影剤のマイクロバブルとその残存物が存在する場合、キャビテーション発生及び温度上昇が増強されるため4,5),音響出力の安全上の閾値は低下すると推察される.しかし、ARFIの超音波出力でどの程度生体作用が増強されるかについては,まだ明らかにされていない.

上記のように,製造元から提供されたデータから,本装置が厚生労働省の認証基準(米国 FDA においては承認のための基準のひとつ)を満たしていることは確認されますが,本技術で用いられる超音波の送信波形や波連長が従来のものと大きく異なるため,その生体への影響については現時点では判断が難しく,ことに安全性が最も望まれる検査においては,さらに検討する必要があると本委員会では考えています.

また,造影剤を投与した場合は,マイクロバブルとその残存物が体内から消滅するまでに必要な時間を経過した後に十分注意して実施することを推奨します 6)

文 献

1) Palmeri ML, Wang MH, Dahl JJ, Frinkley KD, et al. Quantifying hepatic shear modulus in vivo using acoustic radiation force.Ultrasound in Medicine & Biology 2008;34:546-58.

2) http://www.siemens.com/strain(英語)  http://msm.mochida.co.jp/strain.html(日本語)

3) Herman BA, Harris GR. Models and regulatory considerations for transient temperature rise during diagnostic ultrasound pulses. Ultrasound in Medicine & Biology 2002;28:1217-24.

4) Dalecki D, Raeman CH, Child SZ, et al. The influence of contrast agents on hemorrhage produced by lithotripter fields. Ultrasound in Medicine & Biology 1997;23:1435-9.

5) Barnett SB, Duck F, Ziskin M. Recommendations on the safe use of ultrasound contrast agents. Ultrasound in Medicine & Biology 2007;33:173-4.

6) Diane Dalecki, Carol H. Raeman, Sally Z. Child, David P. Penney, Edwin L. Carstensen. Remnants of Albunex nucleate acoustic cavitation. Ultrasound in Medicine & Biology 1997;23:1405-12.